デザイナーの仕事は「クライアントの目的に合ったデザイン」を作ることです。クライアントの目的を理解するためにも、関係者間でスムーズな連携をとるためにも、コミュニケーション力は欠かせません。
本記事ではデザイナーに求められるのはどんなコミュニケーション力なのか、どうすれば高められるのか、すぐに試せる方法を紹介します。
目次
デザイナーにコミュニケーション力が必要な理由
デザイナーの仕事は単にセンスの良いデザインを作ることではありません。デザインには商品プロモーションやブランディングなどの目的があり、ヒアリングを通してクライアントの要件を深く理解すること、プロジェクトメンバーとスムーズにやり取りすることが欠かせません。
良いデザインのアウトプットを出すには、クライアントとのコミュニケーションはもちろん、プロジェクトメンバーにもクライアントの意図を的確に伝える必要があります。 クライアントの要件に的確なデザインを提案したり、修正依頼がきたときにメンバーに伝えたりする際にコミュニケーション力は必須といえます。
また、デザイナーとしての経験を積むうちに、チームのディレクションを任されることも出てくるでしょう。クライアントと直接話をするフロントの役割や、ディレクターの役割をする場合は人を動かすスキルも必要です。 コミュニケーション力がなければ、プロジェクトをスムーズに進行させることは難しいでしょう。
1. デザイナーの仕事は2種類に大別できる
デザイナーの仕事は「上流工程」と「下流工程」の2つのフェーズに大別できます。これらのフェーズには異なるスキルとアプローチが求められ、必要となるコミュニケーション力も変わってきます。
1-1. デザインを考える「上流工程」
上流工程はデザインの企画をする役割です。デザインを実際に製作する前に、プロジェクトの目標やターゲット、競合他社の分析などが行われ、デザインの方向性が決まります。
デザイナーはクライアントやプロジェクトマネージャーと協力を通して、プロジェクトの目的を理解し、デザインのコンセプトを策定します。 上流工程において、デザイナーのコミュニケーション力がより重要になります。クライアントの要望やビジョンを正確に把握しなければならないからです。制作やコーディングを複数のメンバーで進める場合、彼らとの意思疎通や指示出しも必要です。
1-2. デザインを作る「下流工程」
下流工程は作業・制作を行う役割です。クライアントからの要望やプロジェクトの指針に基づき上流工程(ディレクターなど)でデザインの方針やイメージを決め、下流工程でそれに沿ってデザインを実際に作っていきます。
たとえばWebサイトやアプリケーションの画面に配置するボタンやアイコンを作ったり、これらを配置して画面全体をデザインしたりといった仕事をします。 下流工程においては「自分自身とのコミュニケーション」「クライアントや指揮者とのコミュニケーション」が求められます。
自分のアイデアをデザインに落とし込むためには、自分自身とのコミュニケーションを通して言語化や具現化を進めていかなければなりません。クライアントや指揮者の言っていることを正しく理解したり、意図を汲んだりすることで、デザイン制作をよりスムーズに進められるでしょう。
1-3. 上流と下流の狭間で、コミュニケーション力が求められ始める
デザイナーの仕事はデザインのコンセプトや方向性を確立し、実際に制作にあたるメンバーに指示を出す「上流工程」と、実際のデザイン製作を行う「下流工程」に分けられます。上流工程から下流工程までを、一人のデザイナーが一貫して行うこともあります。
いずれにしても、デザイナーはこれらの異なるフェーズでそれぞれ必要となるコミュニケーション力を磨き、プロジェクトを成功に導かなければなりません。 このように、デザイナーにはデザイン製作に関する知識やセンスだけでなく、コミュニケーション力も必要とされます。
2. コミュニケーション力に付随するデザイナーに必要な力
デザイナーはクライアントやプロジェクトマネージャー、コーダー、ほかのデザイナーなど、さまざまなステークホルダーと連携しながらプロジェクトを進めていきます。そんなデザイナーに求められるのはどんなコミュニケーション力なのか、5つの観点から紹介します。
2-1. 自分の考えを整理し、アウトプットする力
上流工程でも下流工程でも、「自分の考えを整理し、アウトプットする力」は欠かせません。感覚的には理解をしていても、整理しアウトプットする過程には、ロジカルな思考も必要です。 デザイナーはクリエイティブなアイデアを持っていますが、それをほかの人に伝えるためには自分の考えを整理し、他者にアウトプットする能力が必要です。言葉やスケッチ、プレゼンテーションを通じて、説明する際は、ロジカルにわかりやすくデザインのコンセプトやビジョンを共有しましょう。
2-2. クライアントのニーズや課題を引き出す力
デザイナーは、マーケティングやブランディングなどの目的を果たすためにデザインを制作します。クライアントがどんなニーズや課題を抱えているのかを引き出し、理解する力が求められます。
良いコミュニケーションは双方向のものです。デザイナーはクライアントとの対話を通じて、ニーズや課題を理解し、それに基づいてデザインの方向性を決めていきます。クライアントの中にあるイメージが曖昧でも、ヒアリングを通して少しずつ明確にしていかなければならないことも少なくありません。
クライアントに適切に質問したり、ちょっとした雑談を通して打ち解けたり(このスキルを”アイスブレイク”といいます)するコミュニケーション力が必要です。
2-3. 他者に共感し、思いやる力
基本的に、デザイナーが一人で仕事をすることはありません。少なくとも、デザイナーに仕事を依頼したクライアントと、デザインを実装するコーダーやコピーライター、撮影があればカメラマンなどいるはずです。大規模なプロジェクトになればチームを組み、複数のメンバーで協力しながらデザイン制作を進めていくことになるでしょう。
コミュニケーションにおいて、他者の立場や視点を理解し共感することは重要です。デザイナーはクライアントやチームメンバーを尊重し、彼らの感情やニーズに対して思いやりを持つことが求められます。これにより信頼関係が築かれ、よりスムーズに仕事を進められるようになるでしょう。
2-4. 他者の話を理解し、意見をまとめあげる力
特に大規模なプロジェクトでは、デザイナーはさまざまなステークホルダーから情報を集め、それをデザインに反映させることになります。クライアント側に複数の担当者がいて、それぞれ異なる意見が出ることもあるでしょう。
制作チーム内で意見が食い違うこともあります。 他者の話を注意深く聞き、その要点を把握し、議論や意見をまとめあげるコミュニケーション力が必要です。
2-5. 相手が話しやすいように立ち居振る舞う力
相手が話しやすい環境を整えることもコミュニケーション力の一部です。オープンで協力的な態度を示すことで、各ステークホルダーとのコミュニケーションが円滑になるでしょう。 直接コミュニケーションを取るとき以外にも、相手が話しやすいような雰囲気づくりを心がけたいです。
たとえば対面での打ち合わせや作業、ビデオ会議なら愛想良くニコニコするだけでも、雰囲気は大きく変わります。 リモートでのやり取りなら適度に絵文字を使ったり、「困ったことがあったらいつでも教えてくださいね!」とこまめに伝えたりすることで、相手の「顔が見えなくて感情も読みづらい」「何となく怖い」という気持ちを払拭できるでしょう。
3. デザイナーがコミュニケーション力を高めるためにできること
生まれつきの得意・不得意、内向的・外交的はありますが、コミュニケーション力は磨くことができるスキルです。デザイナーとして求められるコミュニケーション力を高めるための、すぐに試せる3つの方法を紹介します。
3-1. 受け身ではないヒアリングをする
デザイナーにはクライアントやチームメンバーの意見を聞く「ヒアリング」のスキルが求められます。受身で相手の話をただ聞くのではなく、「相手を理解すること」を心がけましょう。次のようなことを意識するだけでも、相手は話しやすくなり、認識のズレも生まれづらくなります。
・相手の話に深く耳を傾けていることを、頷き方や目線を意識して全身で示すこと
・気になることや理解できたか不安なことがあったら、積極的に質問を投げかけて深堀りすること
・自分の解釈を言語化し、認識にズレがないか相手に確認すること
3-2. 顧客の想いを言語化する
デザイナーは商品やサービスなどのクリエイティブなアイデアを説明するために、デザインを制作します。その商品やサービスに込められた想い、いわば顧客の想いを言語化することで、よりコンセプトにあったデザインが作れるでしょう。これは特に、チームで仕事をするときに重要です。
3-3. 仮説を立て、実行する
コミュニケーション力を磨くには実践あるのみ、です。新しく学んだコミュニケーションのテクニックを実際に試してみること、上手くいかなかったときはその理由と改善策を考え、やり方を少し変えて実践してみることが大切です。 たとえばクライアントへの質問の仕方や内容を変えてみたり、相手の反応をよく観察して「どうしてこの反応になったのだろう」と考えたりしてみましょう。仮説と改善をくり返すことでフィードバックが蓄積され、自分に合ったコミュニケーション・スタイルが確立されていくはずです。
4. できるデザイナーはコミュニケーション力が高い
デザイナーの仕事は「デザインを通して、クライアントの目標達成や課題解決にアプローチすること」です。デザイナーの作るデザインには常に明確な目的があり、その目的は自分以外の誰かのものです。自分の思うままに製作するのはアーティストの仕事であり、デザイナーの仕事ではありません。
クライアントの目的や意図を理解するためにも、メンバー間で共通認識をもちスムーズに仕事を進めるためにも、コミュニケーション力は欠かせません。 まずは自分の中にあるアイデアやデザインに対する考えといった「言葉にならない何か」を、言葉にすることからはじめてみましょう。他者とコミュニケーションを取るときは、本記事で紹介したコツや練習法を意識してみてください。