小売DXとは、デジタル技術を活用して小売業のビジネスを変革し、顧客体験を向上させる取り組みです。この記事では、小売DXのメリットや事例、推進ポイントをわかりやすく解説しています。消費者の行動変化に対応し、競争力を強化したい小売業者には必見の内容です。
目次
1. 小売DXとは
小売DX（デジタルトランスフォーメーション）とは、小売業界がデジタル技術を活用して業務やサービス、経営を変革する取り組みです。
従来の小売業では、商品を店舗に並べて販売するのが主流でした。しかし、インターネットやスマートフォンの普及により、顧客の購買行動やニーズが多様化し、オンラインショッピングも一般化しました。これにより、従来の運営手法だけでは対応が難しくなっています。
また、人口減少や高齢化に伴う人手不足が深刻化する中で、デジタル技術の活用による業務の効率化や省力化も必要です。
小売DXは、企業が変化する市場環境に適応し、新しい価値を提供するための手段となっており、近年、業界全体でその必要性が高まっています。具体的には、オンラインとオフラインの購買体験を統合したOMO（Online Merges with Offline）戦略や、顧客データを活用したマーケティング、需要予測のためのAI活用などが小売DXの代表的な取り組みです。
2. 小売業でDX推進が求められる理由
小売業界では、消費者ニーズの多様化や急速なデジタル化に伴い、ビジネスの革新が求められています。特に、消費者行動の変化、人手不足、システムの老朽化といった要因が、企業の経営や運営に直接的な影響を及ぼしています。これらの課題に対応するため、DXを通じたビジネスモデルの変革が必要とされています。
2-1. 消費者行動の変化
近年、オンラインショッピングの普及やスマートフォン利用の増加により、消費者の購買行動が大きく変わっています。従来の「店舗に足を運んで商品を購入する」スタイルだけでなく、いつでもどこでも商品を調べて購入することが当たり前になってきました。SNSや口コミの影響力も増しており、顧客はより多くの情報をもとに商品を選ぶ傾向が強まっています。
これに対応できない場合、顧客が離れ、競合他社にシェアを奪われるリスクが高まります。消費者にとって便利で魅力的な購買体験を提供できないと、ブランドの競争力が低下する恐れもあるため、DXによる消費者行動への対応は急務となっています。
2-2. 人手不足
少子高齢化の影響で、小売業においても人手不足が深刻化しています。人手に頼った運営では採用が困難なうえ、店舗業務の負担が増え、従業員の働き方や生産性にも悪影響を及ぼしています。また、シフトを柔軟に組めなくなり、営業時間や顧客対応に影響が出る場面もあるでしょう。
この問題を放置すると、従業員の過重労働や離職のリスクが高まります。店舗の運営がスムーズに行えなくなることで、顧客満足度の低下や売上の減少につながる恐れもあります。人手不足への対応には、デジタル技術による省力化や業務効率化が不可欠です。
2-3. システム老朽化
長年利用しているシステムが老朽化し、運用や保守の負担が増加している企業も少なくありません。古いシステムは最新のデジタルツールやアプリケーションと連携できず、データの一元管理やリアルタイムな顧客対応が困難になることも多いです。また、セキュリティ面でも脆弱なケースが増えています。
システムの老朽化を放置すれば、トラブルやデータ漏えいのリスクが高まります。新たなDX施策を導入しようとしても、既存システムが足かせとなり、競争力強化の妨げになる可能性があります。古いシステムの見直しと、柔軟なデジタル環境への移行が、小売DXの推進には欠かせません。
3. 小売DXのメリット
小売DXを推進することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。業務効率の向上や顧客満足度の向上はもちろん、データに基づいた経営判断や人材不足の解消など、多岐にわたる効果が期待できます。
3-1. 業務効率化とコスト削減
DXを推進することで、業務プロセスをデジタル化し、自動化できます。たとえば在庫管理システムを導入することで、発注業務を自動化したり、販売データと連携して在庫状況をリアルタイムに把握したりすることが可能になります。
これにより、業務効率が向上し、人的ミスも防止できます。人件費や在庫管理コストの削減にもつながるでしょう。
3-2. 顧客満足度の向上
顧客一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズされたサービスを提供することで、顧客満足度を向上させられます。たとえば、顧客の購買履歴や属性データに基づい、おすすめの商品を提案したり、クーポンを発行したりすることが可能です。
また、オンラインとオフラインのチャネルを連携させることで、顧客はいつでもどこでも好きな方法で商品を購入できるようになり、利便性が高まります。
3-3. データドリブン経営の実現
POSデータや顧客データ、Webサイトのアクセスログなど、さまざまなデータを収集・分析することで、顧客のニーズや市場のトレンドを把握できます。
これらのデータに基づいて、商品開発やマーケティング戦略、販売戦略などを立案することで、より効果的な経営判断を行うことが可能になります。データドリブン経営は、企業の競争力強化に不可欠な要素といえるでしょう。
3-4. 人材不足への対応と省人化
セルフレジや清掃ロボットなどの導入により、店舗業務の省人化を実現できます。また、AIを活用したチャットボットを導入することで、顧客からの問い合わせ対応を自動化することも可能です。これにより、人材不足を解消し、従業員をより付加価値の高い業務に集中させられます。
4. 小売DXの取り組み事例5選
国内外の小売企業では、デジタル技術を活用し、業務の効率化や顧客満足度の向上を図るDX施策が進められています。ここでは、主要企業が実施している代表的なDXの取り組みについて紹介します。
4-1. ローソン
ローソンは、人手不足や食品ロスといった小売店の課題解決、そして地域社会への貢献を強化するため、三菱商事、KDDIと連携し「未来のコンビニ」への変革を目指した取り組みを開始しました。
具体的には、実験店舗で得られた結果をもとに、スマホレジやAIサイネージ、ロボット活用による店舗業務の最適化などを実店舗にも拡大していきます。
さらに、KDDIのStarlink通信環境やドローンを活用した防災対策、オンデマンド乗合交通との連携による移動支援など、地域課題の解決にも取り組みます。
Ponta経済圏の拡大やauスマートパスプレミアムのリニューアルによる顧客接点強化も図り、コンビニの役割を深化させていく方針です。
参考：三菱商事・KDDI・ローソン、<br>「未来のコンビニ」への変革に向けた取り組みを開始｜ローソン公式サイト
4-2. 三越伊勢丹
三越伊勢丹は、顧客体験の向上とオンライン・オフラインの連携を強化するためのDX施策に力を入れています。
具体的には一人ひとりの顧客「個客」とつながるための取り組みとして、CRM戦略に力を入れています。
百貨店レベルではMIポイントやMIアプリなどを活用した識別顧客の視野拡大と、アプリを活用したパーソナルな施策の実施により、よりパーソナライズされた顧客体験を提供。
グループレベルでは外部提携によるMIカードの獲得やポイント戦略の推進により百貨店外のカード獲得強化＝顧客獲得の強化を行い、百貨店や金融サービスの利用促進に活かしています。
三越伊勢丹はこれまで4つの視点、「オンラインショッピング体験」「接客のデジタル化」「営業支援のデジタル化」「オンライン訴求」からDXを推進しており、これらを融合させた仕組みにより、最高の顧客体験を提供することを目指しています。
参考：経営計画 | 経営方針 | IR・投資家情報 | 株式会社三越伊勢丹ホールディングス
4-3. ユニクロ
ユニクロで知られるファーストリテイリングは、情報製造小売業の実現に向けて全社・全員で全社改革を進めています。情報製造小売業とは、商売を通して顧客満足を追求し、よりよい社会を実現することを、より高いレベルで目指すために考えられた、ファーストリテイリングの新しい事業の在り方です。
顧客からの声や情報を収集しつつ、自社からの情報発信を行うことで、顧客とダイレクトにつながる基盤を構築。この基盤を通して、顧客にいつでもどこでも便利で楽しい購買体験を提供したり、顧客の声を起点に情報の商品化・商品の情報化を進めたりしています。
また、顧客に求められているものを必要なときに必要な分だけ作り、販売するためにも、この基盤は役立っています。
そのために活用されているのが、ECサイトや実店舗での顧客行動データです。データの利活用や独自の情報発信チャネルなど、デジタル技術の徹底活用により、ファーストリテイリングは新しい事業モデルを模索しています。
参考：有明プロジェクトについて～“情報製造小売業”の実現に向けて～
4-4. ニトリ
ニトリはITと人材育成の両面からDX推進に力を入れてきました。
商品の企画・製造から、物流、販売までを一貫して自社で行うニトリグループのビジネスモデルは、自前主義で構築してきたITに支えられています。外部から最新技術を取り入れつつ、システムの企画や開発、管理を自前で実施することで、自社最適なIT基盤を構築してきたのがニトリグループです。
そのためにIT人材の育成、教育にも注力し、2022年4月には「ニトリデジタルベース」を設立。
ほかにも、多数精鋭の組織づくりを掲げるニトリグループは、広大な事業領域のもとで2～3年ごとに幅広い職種を経験していく配転教育を行っています。一人ひとりの従業員が豊富な知識と幅広い経験を得ることで、多角的な視点を持ったスペシャリストを育成できるという教育システムです。
ニトリグループは幅広い領域の専門性を組み合わせてイノベーションを起こせる「ニトリ型スペシャリスト」を育てることで、今後も持続的成長を目指していきます。
4-5. イオンモール
イオンモールで知られるイオングループは、「イオンデジタル生活圏」の創造と、これを通じた地域社会への貢献を目指し、DX推進に力を入れています。
イオンデジタル生活圏とは、リアル店舗や物販から、リアルとデジタルが融合したシームレスな買い物体験へと、ビジネスの中心を変革していく取り組みです。
そのために、イオングループはデータ連携や基盤構築による新たな収益モデルの創造や、データ・AIを活かした既存オペレーションの刷新を進めています。
デジタルスキル標準を活用したデジタル人材の育成、約7,000名でのDXアセスメント受験など、DX人材の育成にもイオングループは力を入れています。
参考：DX of AEON｜イオングループのDX部門紹介メディア
【まとめ】デジタルネイティブの世界では小売DXが欠かせない
消費者の行動変化やテクノロジーの進化に伴い、小売業界においてDXはもはや避けて通れない道となっています。DXを推進することで、顧客満足度向上、業務効率化、そして新たなビジネスチャンスの創出など、多くのメリットを得ることが可能になります。
もし、これから小売DXへの取り組みを検討しているのであれば、まずは自社の課題を明確化し、解決すべき課題を特定することから始めましょう。そして、その課題に対してどのようなデジタル技術を活用できるのか、具体的な施策を検討していくことが重要です。
株式会社サンでは、中小企業の革新と成長を共に目指すパートナーとして、DXサポートサービスを提供しています。私たちはDXマーク取得企業としての知見を活かし、現状分析や目標設定から施策の実施、効果測定・改善までを一気通貫でサポートします。中小企業診断士による、DX推進に活用できる補助金の選定・支援も可能です。
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